2005年7月号
二世のためのレイヤー設備講座 第8回 動物愛護と加工原料原産地表示 担当: おやじ / 弊社社長 安田 勝彦
レイヤー生産者が取組まなければならない近未来の課題につき2点を取上げたいと思います。 設備そのものの話から離れる面がありますが、レイヤー農場が20年単位で設備投資を考えていく、即ち装置産業化している流れの中、経営の安定化を計る上で重要な課題であると考えます。 1.動物愛護 養鶏が庭先養鶏であったころ、トリは害虫、雑菌等にさらされ、斃死率は年間40%に及んだといわれます。 このような状況の中、クリーンで効率的なタマゴの生産方式を求め、試行錯誤の末産みだされたのがケージシステムです。 ご存知のように、EUでは、グリーンパーティーを尖兵とする政治パワーにより、消費者が十分な情報を提供されないまま、生産者は平飼を強いられています。 欧米のよいところ、参考になるところのみ取り入れ、日本の養鶏を築く時代に入っています。 動物愛護については、米国生産者協会(UEP)のアクションプランが実践的方向を示していると考えます。 骨子は、ケージ内羽当り生活スペースを2008年、白432、赤490(平方センチ)に段階的に拡充、デビーク、強制換羽等に一定の基準を設け、このガイドラインに沿って生産されたタマゴには第三者機関による検証を条件に「動物愛護マーク」を添付する、です。 ドイツ、オランダ等中央ヨーロッパの鶏舎の原点はウインドレスで、トリをケージに詰め込めるだけ詰め込んできた歴史があり、これがグリーンパーティー等自然を大切にしようとする人達の反発を買った背景があります。 本当に動物愛護を考えるのであれば、自然の産卵サイクルを超越して進む育種改良をどう考えるのでしょうか、産卵を続けるトリを生産経済性がなくなったといって廃鶏にすることをどう考えているのでしょうか。 日本の養鶏の原点は自然と共存型の開放鶏舎が原点です。 平飼もおおいに結構です。しかしそれはこだわりのタマゴ等生産の選択の一つとして考えられるべきことで、政治パワーで生産者に強制されるべきことではありません。 ヨーロッパでのこの問題に対する過ちを日本に持ち込まないために、米国UEPガイドライン (後出:抄訳) を参考にこの問題に真剣に取組む時が来ていると考えます。 日本生産者協会の行動が期待されます。 2.加工原料産地表示 消費者のタマゴ製品に対する信頼と安心を高め、中国、ブラジルで生産されるタマゴとのフェアな競争を確立するために大切な課題です。 トレーサビリティが議論され、動物愛護の問題も考慮される可能性がある流れの中、国内産のタマゴは、消費者の安心と信頼を一歩一歩固めて行くと思います。 マヨネーズ等加工食品に使用されているタマゴについても、大多数の消費者は安心を求めていると思います。 ところが原産国表示すらないのが現状です。 これは生産者のみならず、消費者にとっても、長い目で見れば加工業者にとっても改善しなければならない問題だと確信します。 即ち、生産者にとっては、トレーサビリティ、動物愛護等国内生産に係るコスト回収、消費者には安心と品質、加工業者にはより安定したビジネス基盤(原料疑惑による突然のブランド失墜回避、消費者信頼増による需要の安定等)を与えると考えます。 関係団体の政府への働きかけ、政府関係者の行動が期待されます。 UEP動物愛護ガイドライン抄訳 訳:安田勝彦(東洋システム株式会社) 米 国 鶏 卵 産 業 米国鶏卵産業は過去50年間に飛躍的に発展した。 農村から都市への人口移動の結果畜産を含む農業人口は、全人口の2%になり、この2%人口で98%人口の食を支える社会構造の変化が米国鶏卵産業の発展を生んだ。 1940年代の養鶏はバックヤード養鶏と呼れる農家の裏庭養鶏で、病気、寒さ、外敵、中毒症状、闘争等によりトリの年間減耗率は40%に及び年間産卵個数は100個程度であった。トリは冬期自然換羽に入るため年間を通じて新鮮なタマゴを得ることはできなかった。 増大する鶏卵需要に効果的でトリの健康によい生産方式が試行錯誤された結果生れた近代的生産方式がケージ飼育方式であった。 近代的生産方式は主として大学を中心とする研究と農家の実践により完成度を高め現在の鶏卵生産方式が確立された。 現在米国に於ける採卵の98%以上はケージで生産され、世界的に見ても70〜80%はケージで生産されている。 ヨーロッパの一部でケージ生産方式から離れる動きもあるが、世界的に見た場合、ケージによる鶏卵生産は着実に増加して行くと考えられる。 米国に於ける鶏卵生産は完全な自由競争の中、巨額な投資を必要とする大型農場で行われるようになったが、市場要求に迅速に応える必要から農場はオーナーにより日常の決定がされて行く「ファミリー企業」に分類される業態である。株式を公開している会社は2社のみである。 米国採卵鶏群に対する人道的基準 消費者の意識 先進国では畜産に於ける動物愛護に関する関心が高まりつつある。将来に向けて養鶏産業を安定的に発展させるためには動物愛護の面でも消費者の理解が得られる生産方式を確立して行く必要がある。 UEPの使命 UEP(United Egg Producers)は動物愛護に関する鶏卵産業向に最初の基準を1980年代に作成した。 その後動物愛護に対する関心の高まりを踏まえ、1999年、USDA関係者、学術院関係者、科学者及び人道協会関係者からなる独立性をもった動物愛護に関する科学諮問委員会(Indepentdont Scientific Advisory Committee)の発足を依頼、同諮問委員会は科学的文献を基礎とした科学的検討により2000年動物愛護に関する勧告をまとめた。 勧告は次の4項につき行われた。勧告内容は今後新たな科学的情報により見直される可能性がある。
この勧告は強制力を有するものではないが、UEPはこの勧告内容を米国鶏卵産業界に定着させることを決定、勧告内容を「UEP動物愛護ガイドライン」(United Egg Producers Animal Husbandry Guidelines For U.S.Egg Laying Flocks) として発刊すると同時に、従業員教育用ビデオを作成し普及に努めている。 羽当り生活スペース及びハウジング
(鶏舎及び鶏舎管理) 多くの研究が羽当り生活スペースが67〜86平方インチ(432〜555平方センチ)を下回ると産卵成績及び減耗率に影響が出ると報告している。 必要羽当り生活スペースはケージタイプ及びトリの種類によって変動する。例えば小型鶏を奥行きの浅いケージ(シャーロージ:給餌スペースが大きい)に収容する場合は上記範囲の下限にあり、奥行きの深いケージ(ディープケージ)に赤玉鶏を収容する場合は上限にある(この範囲以上スペースがあるとトリの闘争性が増長されトリにストレスがかかるとの科学的報告がある)。 鶏舎はトリを極端な暑さ寒さ及び外敵から守るよう作られ維持される必要がある。又、トリは病気、寄生虫、害虫の害が最小限になるよう適切な管理手順により管理されるべきである。 鶏舎及びケージは毎日の管理、観察がやりやすいよう設計されているべきである。 ケージはトリのケガを避けるよう設計及び管理されるべきである。 ケージ、給餌機及び給水器はトリの快適性と健康を考え、又トリを傷つけることなく取出せる様作られるべきである。
デ ビ ー ク
科学的実証によれば、デビークを必要としない温順なトリを育種段階で選抜することができる。 鶏種選定によりデビークをなくして行くのが最も望しい方向である。 しかし管理環境(自然光により舎内照度が高い場合)、鶏種又はカンニバリズムの発生によっては、トリをツツキ、恐怖等から守るためデビークが必要になる。 デビークの実施は最小限に抑えるべきであるが、デビークが必要になった場合は次の基準に従う。
強 制 換 羽
畜産物生産に於ける動物愛護に対する消費者の関心が高まる中、強制換羽(以下「強換」)については、強換そのものではなく、その方法について考慮する必要がある。 強換は鶏卵生産プログラムの一環になっており、強換を実施することにより約50%少いトリで鶏卵生産が可能になる。 強換は産卵に休息期間を与えトリの寿命を延すことになり処理場に送る廃鶏も少くすむ。 断餌をすることなく強換ができる技術が開発されることが望まれるが、そのような技術が開発される迄の間は次の基準により強換を行うことを推奨する。
トリの取扱い、輸送及び廃鶏処理
採卵鶏は産卵末期には骨が弱くなる傾向がある。 産卵期間中卵殻形成のため骨を消費しないため十分なカルシュムとリンを与えることは重要である。 トリの取扱、輸送及び廃鶏処理にあたっては次の基準による。
安 楽 死 ヒヨコ又は成鶏を安楽死させなければならない場合はトリに苦痛を与えないと認められている最善な方法によらなければならない。 実 施 時 期
羽当り生活スペースについては直に実行に移すと鶏卵供給に支障をきたす恐れがある。 市場に混乱をきたすことなく、且つ生産者が現在の産卵鶏群及び育成中の鶏群に影響なく実施するためには段階的実施が必要である。 これらを勘案し生産者及び市場関係者は次の基準を達成すべきである。
当面は一農場の全鶏舎平均で上記基準を達成することとするが、究極的な目標は鶏舎毎に上記基準を達成することである。従って新設又は改造鶏舎については鶏舎毎の計算で上記基準を達成することを推奨する。 その他の項目即ちデビーク、強換及びトリの取扱、輸送に関する項目については2002年7月1から実施するべきである。 コンプライアンス(ガイドライン順守) 監 査
ガイドライン順守の徹底を計るため、この動物愛護プログラムに参加する会社はUEPの承認を受けた独立監査人(Independent Auditors)の監査を毎年受けなければならない。 監査は参加企業の継続的実施を確保するため、UEPが開発した監査基準手続、監査用紙及び採点方式で統一的に行う。 監査結果はEUP、参加企業及び情報公開を求める消費者に直接報告される。 2002年4月1日から2003年9月30日迄の導入期間では70点以上の評点、2003年10月1日以降は85点以上の評点を得なければならない。 羽当り生活スペースについては必ずガイドラインを満していることとし、この基準が満されていない場合は、評点が基準点以上であっても不適合とする。 ガイドライン基準を満した企業は(動物愛護ガイドライン)認証企業とする。 証 明
初回の監査が行われる迄の間、動物愛護認証を申請した場合、申請企業は認証仮番号を受取る。 監査を受け監査に合格した段階で完全認証企業となる。 認証企業を維持するためには、監査人が監査結果の写をUEPに直接送ることに同意しなければならない。 動物愛護マーク
動物愛護認証企業で生産された鶏卵であることを市場で識別できるよう鶏卵パック、カートン等に貼る動物愛護シールを用意する。 認証鶏卵の取引
認証企業による鶏卵を消費者に確実に届けるため認証企業が生産した卵は認証企業間で取引されるシステムを目指す。 認証企業に対する要求事項
UEP役員会は認証企業に対する追加要求事項を下記の通り決定した。
動物愛護基準に沿って生産されたタマゴのパックに表示される「動物愛護マーク」 参考データ:米国に於ける1999年時点羽当り生活スペース |
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